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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)9340号 判決 1968年7月30日

原告 吉賀良造

右訴訟代理人弁護士 秋根久太

被告 株式会社共栄商事

右訴訟代理人弁護士 鈴木保

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告訴訟代理人は

「一、被告は原告に対し別紙目録記載の不動産についてなした東京法務局練馬出張所昭和四一年四月二一日受付

(1)第一九八七〇号原因昭和四〇年一二月一八日金銭消費貸借の同日設定予約、債権額金一五〇万四、五〇〇円、利息年一割五分、損害金年三割の抵当権設定請求権仮登記

(2)第一九八七一号原因昭和四〇年一二月一八日停止条件付代物弁済契約(条件同年同月同日の抵当権の債務不履行)に基く停止条件付所有権移転仮登記

(3)第一九八七二号原因昭和四〇年一二月一八日停止条件付設定契約(条件同年同月同日の抵当権の債務不履行)、借賃一ケ月坪一〇万円、支払期日毎月末日存続期間三年、特約譲渡転貸ができる旨の停止条件付賃借権設定仮登記の各抹消登記手続をせよ。

二、訴訟費用は被告の負担とする。」ととの判決を求め、その請求の原因として、

(一)  別紙目録記載の不動産は原告所有のものであるが、右については被告を登記権利者、原告を登記義務者として、請求の趣旨第一項記載の如き、東京法務局練馬出張所昭和四一年四月二一日受付

(1)  第一九八七〇号抵当権設定請求権保全の仮登記

(2)  第一九八七一号停止条件付所有権移転の仮登記

(3)  第一九八七二号停止条件は賃借権設定仮登記

がなされている。

(二)  そして、その原因とするところは、被告は昭和四〇年一二月一八日訴外株式会社あんばちゃに対し、原告及び訴外志知宗三郎、同志知秀男、同志知ト志江を連帯債務者として金一五〇万四、五〇〇円を利息年一割五分、損害金三割の約定で貸付け、同日原、被告間に右債務につき別紙目録記載の不動産につき抵当権設定予約停止条件付代物弁済契約停止条件付賃借権設定契約がなされたと言うのである。

(三)  然しながら、原告は被告に対し、右の如き金銭の貸借につき、連帯債務者となった事はないし、又、抵当権設定予約停止条件付代物弁済契約、及び停止条件付賃借権設定契約をしたことはない。

(四)  よって、前記第(一)、(二)項記載の各登記は、いずれも登記原因を欠く無効のものであるので、原告は所有権に基き、右各登記の抹消登記手続を求める。

と述べ、被告の抗弁事実を否認した。

証拠<省略>。

二、被告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を決め、答弁及び抗弁として、

(一)  原告主張の請求原因第(一)、(二)項の事実は認める第(三)及び第(四)の事実は否認する。

(二)  被告は昭和四〇年一二月一八日訴外株式会社あんばちゃに対し金一五〇万四、五〇〇円を利息年一割五分、損害金年三割、支払方法昭和四一年四月二一日限り金八二万二、三〇〇円、同年四月三〇日限り、金二四万四、二〇〇円、同年五月一〇日限り、金二二万二、〇〇〇円、同年五月二〇日限り金二一万六、〇〇〇円の約定で貸付け、その際原告は右訴外株式会社あんばちゃの被告に対する債務につき連帯保証をなし、かつ別紙目録記載の物件につき、原告主張の如き抵当権設定予約、停止条件付代物弁済契約及び停止条件付貸借権設定契約をなし、原告主張の如く本件各登記がなされたものである。

(三)  なお、原告と被告間の各契約は原告の妻吉賀里子が、原告の代理人としてなしたものである。

(四)  仮に、訴外吉賀里子に原告の右代理権がなかったとしても、原告は昭和四〇年一二月一八日頃訴外吉賀里子に対し訴外志知秀男、同志知ト志江が信用金庫から金融を受けるにつき、原告の代理人として契約を締結すべき権限を与え、委任状、印鑑証明書を交付していたところ、訴外吉賀里子において原告の代理人として本件各契約をしたものであるところ、一方被告としては、訴外吉賀里子が原告の妻であり、原告の委任状、印鑑証明書を持参していたので同訴外人が本件各契約をなすにつきその権限があるものと信じてなしたものであるから原告は民法第一一〇条の意見代理の法理に従い、本件各契約上の責任がある。

(五)  仮に右主張に理由がないとしても、原告は昭和四一年四月二一日被告会社代表者に対し口頭で、右吉賀里子の無権代理行為を追認した。

(六)  以上のとおり、本件各登記は実体関係に基き正当になされた登記であるから、原告の主張はいずれも理由がない。

と述べた。<省略>。

理由

一、原告主張の請求原因第(一)及び第(二)項の事実は当事者間に争いがない。

二、そして、<証拠>を綜合すれば、被告はその主張の日時に訴外株式会社あんばちゃに対し金一五〇万四、五〇〇円をその主張の如き約定で貸付け、その際、原告の妻訴外吉賀里子において原告の代理人と称し、被告主張の如き契約をなし抵当権設立金員借用証書を作成したことが認められる。

右認定を左右するに足る証拠はない。

三、然しながら、本件に顕われた証拠によっては、訴外吉賀里子において右行為につき原告の代理権を有していたことを認めるに足る証拠がない。<省略>。

四、又、被告は権限踰越による表見代理の主張をなすが、本件に顕われた証拠によってはその基礎となる代理権を認めるに足る証拠がない。

従って、被告の訴外吉賀里子が原告の代理人であったとし、又は表見代理人であるとする前記各主張は理由がない。

五、しかしながら、原、被告間においては、本件の事実上の借主である訴外志知ト志江等が夜逃げをした後、本件貸借のことで、原、被告間において前記抵当権設定金員借用証書を中心に話合いを進めた結果、原告は本件の訴外吉賀里子の行為を知った上で、昭和四一年四月二一日頃、被告会社に対し本件事件を隠便に納めるため、訴外吉賀里子の前記行為を追認し、印鑑証明書二通を被告会社社員石川得三に交付し本件各登記を経由していることが認められる。その他右認定を左右しうる証拠はない。

六、以上の事実を綜合すれば、本件各登記は、原告の追認により実体関係を欠くものとは言い難いので、原告の本訴請求は理由がない。

よって、原告の本訴請求は失当として棄却することとし、<以下省略>。

(裁判官 三宅純一)

<以下省略>

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